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岡野大嗣歌集『サイレンと犀』の感想など

おばんです。

今日は最近読んだ歌集『サイレンと犀』(新鋭短歌シリーズ16・書肆侃侃房発行)の感想を書いてみようと思います。

ではまず、歌集の公式テーマ曲(?)をお聞きください。

Badly Drawn Boy : Silent sigh



いい曲ですね。

では、はじめます。

あらかじめそのシステムに孕まれた僕の右手が抜く整理券

ドキッとする歌である。本来人間の為にあるはずの「システム」に、逆に自分が組み込まれてしまっている、という感覚。

骨なしのチキンに骨が残っててそれを混入事象と呼ぶ日

鶏には骨が有って当たり前。なのに、取り除ききれなかったそれは異物と見なされて排除される。「混入事象」と言うが、チキンに骨が付いていることが果たして「混入」なのか。利便性を求めるあまり、「正常」と「異常」が逆転していないか・・・?

岡野作品の根底にあるのは、この「自分(人間)よりもシステム(社会、世界)のほうが上位であり、自分はシステムに動かされているに過ぎない」という感覚、そしてそれへの拭い去れない違和感であるように思う。

<お気に入りに追加>しかなくやむを得ずかなしい記事をお気に入りにする

申し込み規約に何か書いてある書いてある書いてあ 同意する


こういう事は多くの人が経験しており、多かれ少なかれ違和感を持っている。持っているのだが、「仕方ない」「しょうがない」でスルーしていくうちに麻痺してしまって、終いには何も感じなくなっていくのだ。「こういうものなんだ」と、疑問すら持たなくなっていく。
そういう、言わば「システムに飼いならされた人々」に対しては、作者は結構辛辣、というか、意地悪である。

ロッチだよ きみがビックリマンシールだって思っていたものぜんぶ

村民が幸福になるイオンへの忠誠心の高い順から

一軒で何でも揃うコンビニをはしごして揃えるマイランチ


一、二首目。揶揄するような調子だが突き放す感じではなく、他の引用作品と同じような独特のユーモアがある。自覚的であるか否かに関わらず、結局自分だって他の人と同じじゃないか、という諦念が作者の裡にあるのではないか。否定的ではあるが、気持ちは分かってしまうから突き放せない、というような。三首目はそんな作者の精一杯の抵抗、というような感じだが、はしごしているのがコンビニというところに若干自嘲的な雰囲気を感じる。

そんな中、ぼくが今作で特に良いと思ったのは次の二首。

トラフィックニュースは告げるこの夜を確かに生きる僕らのことを

消しゴムも筆記用具であることを希望と呼んではおかしいですか


一首目。「東北自動車道、中尊寺パーキングエリア付近で5kmの渋滞です」などとニュースが告げるとき、そこに並んでいるのは「自動車」であり、単位は「何km」である。誰もそれを疑わない、が、本当は違うじゃないか。そこに並んでいるのは「人間」で、単位は「何人」じゃないのか。我々が自動車の列を思い浮かべるとき、作者は更に踏み込んで自動車に乗っている人間の顔を映し出す。その一歩の踏み込みが、この歌を特別なものにしている。
二首目。「筆記用具」とは文字通り書き記すための道具である。しかしその真逆の働きをする消しゴムも、やはり「筆記用具」の一種として扱われるのだ。異物として排除されるのではなく。
どちらの歌も、「システム」に翻弄されて、ともすれば居ない事にされたり異物扱いされたりする人(や物)への共感が歌われていて美しい。

ただひとつ気になるのは、似たような傾向の歌を多く作っているところ。例えば「トラフィックニュース~」の短歌には、歌集のP125、P127にある「渋滞の~」のような類型歌が存在する。その点、今後の課題かと思う。

作者の裡にはおそらく、自分を取り巻く社会や世界に対する相当大きな違和感がある。そういうものに対しては普通、適応して従順になってしまうか、排除しようとして攻撃的になってしまうか、あるいは絶望して諦めてしまうか。そのどれかに傾くものだが、岡野さんはそのどれでもなく、「発見して、観察して、面白がる」ことが出来るらしい。それこそが、岡野大嗣さんの最大の才能ではないか、と思った。

「危ないところマップづくり」で町に出て危ないところを見つけてうれしい

ところで、岡野さんの短歌については以前檀可南子さんがブログに素晴らしい文章を書いていますので、そちらへのリンクも勝手に貼っておきます。こちら→ 岡野大嗣をべた褒めしてみた

可南子さんが指摘している「時間の流れ」も岡野さんの作品の大きな特徴のひとつ、というか、それこそが岡野大嗣さんの最大の才能ではないか、と、舌の根も乾かないうちに思いました。ただ、そちらの傾向の短歌について語りだすとぼくの睡眠時間が無くなってしまうので今回はこれまで。素晴らしい歌集でした。
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